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父は母とは違い、寡黙な人だ。
父も若い頃、新潟から上京してきた。ただただ働き、家族を養ってきた真面目な人で、余計なことは言わずにやるべきことをやる「不言実行」型の父。
少し父と氷室さんは似ているかも知れないと、ふとした瞬間に思うことがあった。
「お母さんの希望通りになったわねー。初めからユリちゃんには氷室さんみたいな人がピッタリだと思ってたもん。とにかく真面目が一番よ。ねぇ?お父さん。」
「・・・・・ああ。」
「ますます氷室さんに会いたくなったわ!とにかく一度、ウチに連れてきて?・・・それにしてもすごいダイヤモンドだわね。鑑定書まで付いてるじゃないの。・・・ほら、お父さん見て!」
「・・・・・うん・・・」
「10万円の車を乗り潰した若者が、鑑定書つきのダイヤモンドをくれたのかぁ。それって凄いことよ。」
「・・・10万円?」
「そうなのよ。氷室さんってデパートの外商やってるエリートなのに、友達から10万円で買った車を何年も乗っていたんだって。・・・お母さんはそれを聞いて、ユリちゃんをお嫁さんにもらって欲しいと思ったわけ。」
「ああ、なるほど。」
私は両親の顔を代わる代わる見て、だまって頷いていた。
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