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夜の公園は昼間とは全く違う顔をしている。
風に揺れるブランコが錆びた音をたて、枯れ葉が砂場の上を舞った。
置き去りにされたボールが悲しそうに転がり、月明かりに照らされている。
昔はこの公園で、よく兄に遊んでもらったものだけれど、最近は顔をあわせることも少なくなって、明らかに兄の存在は遠くなっていた。
けれど今日の一件で、妹の私に対する兄の愛情を知ることができた。
氷室さんの胸の中でそんな喜びを感じながら、足元に落ちた二人の薄い影を見ていた。
「いいお兄さんだね。」
腕の力を少し抜いて、彼が視線を落とし私を見る。
私は笑って、頷いた。
「氷室さん。」
「・・・なに?」
「・・・・・・好き。」
「・・・・・。」
「大好き・・・。」
「・・・・・・ユリ。」
「はい・・・。」
「・・・知ってたよ。」
「・・・・・。」
氷室さんはそう言って笑い、私の髪にキスをすると、抱き寄せていた腕をほどいた。
「さあ、寒いから戻りなさい。」
「はい・・・。」
「こら、そんな目をするな。連れて帰りたくなるだろ?」
「ふふっ。」
「・・・俺も大好きだよ、ユリ。」
「・・・・・。」
「おやすみ。」
「・・・おやすみなさい。」
彼は車に乗り込んでエンジンをかけると、左手を少しあげて合図をし、去っていく。その車のテールランプが見えなくなるまで、ずっと見送った。
月が照らす公園で、私の体にまだ残る彼の体温を感じ・・・そっと胸に手をおいた。
ながい一日が、こうして終わった。
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