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彼が、いつものように車で私の家まで送ってくれる。
2月の夜空は澄んでいて、まだ街は明るい時間なのに星が綺麗に見えた。
「ユリ、バレンタインのチョコ、ありがとう。」
「ふふ、どういたしまして。」
「夕飯に食ったシチューも旨かった。」
「あ、嬉しい。」
「ユリは、どんな料理でも作るんだな。」
「・・・簡単なものばかりですよ?」
「お母さんの手伝いをして覚えたの?」
「あぁ、うちの母は体が弱くて・・・今はすっかり元気になりましたけど、私が小さい頃はよく入院をしていたんです。だから必然的に。」
「へぇ、そうなんだ・・・。」
「父も兄も料理は上手ですよ?兄の得意料理はカルボナーラです。」
「あ、あの牛乳系の・・・。」
「ふふっ。氷室さんは嫌いですものね。」
「・・・『氷室さん』?」
「あっ・・・・洋一さん・・・。」
「ん、ヨシヨシ。」
「はずかしー・・・。」
両手で顔を覆って、俯く私。彼は声を出して笑い、赤信号になり停車したタイミングで私の手をとり、指を絡めた。
「・・・・・・ユリ?」
「・・・?」
「お母さん・・・元気になってよかったな。」
「・・・・・・。」
「ん・・・ほんと、良かった・・・。」
「・・・・・はい。」
私の母を「お母さん」と呼び、体の心配をしてくれる。
ただそれだけで嬉しい。
彼が身近な存在になればなるほどこんなに嬉しいなんて・・・
公園の駐車場へ車を停め、彼が助手席の後ろに手を掛けて私に今日最後のキスをする。
唇を離すと、至近距離で見つめ合った。
「おやすみ、ユリ。」
「おやすみなさい・・・洋一さん。」
「・・・・・それ・・・ヤバいな。」
私はそれを聞いて、頬をゆるめながら車を降りると、彼は左手を少しあげて合図をし、帰っていった。
今年のバレンタインも私の手作りチョコを
洋一さんは、喜んでくれた。
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