7581人が本棚に入れています
本棚に追加
/242ページ
閉店時間近くに、各部署への配布物があって店内の事務所まわりをした。週に2回ほどあるこの業務は、店内巡回をしながら女子社員の身だしなみをチェックする仕事も伴っている。
家庭用品課の事務所を出て、美術品売場の前を通ったときにふと画廊の応接セットを見ると、販売員と打合せをしている氷室さんがいた。
あ、氷室さんだ・・・
今日はあのスーツを着てたんだ・・・
胸が、ときめいた。
何もかもツイてない日に、店内を歩いていたらたまたま彼がいるなんて、と喜んだ・・・・のは一瞬だった。
氷室さんと打合せをする男性販売員と一緒にいた、スラッとした綺麗な女性が、笑いながら氷室さんの肩に手を置いて、楽しそうに話している。
彼もその女性と時々目を合わせて、微笑みながら会話をしていた。
仕事上の話だろうし、仕事上の関係だとわかっている。危険な雰囲気はないし、彼は私を裏切る人ではないと思う。
それをわかっていても、胸がチクッと痛む。
私の氷室さんに触らないで・・・
氷室さんもその人をそんな優しい目で見ないで・・・
こんな日に、やめて・・・
すると、その女性が一瞬私と目が合い、氷室さんの肩に手をおいたままクスッと笑った。
この時、私の中で何かが壊れた。
最初のコメントを投稿しよう!