父と母と、そして彼2

1/3
7578人が本棚に入れています
本棚に追加
/242ページ

父と母と、そして彼2

「氷室さん、たくさん食べてってね。」 母は朝から張り切って、氷室さんに振る舞う料理を作ってくれた。 氷室さんが父に挨拶をしている最中は、黙っていた母だったが、テーブルいっぱいに料理を並べた途端に勢いよく話し始めた。 「はい。いただきます。」 「そのちらし寿司は、ユリちゃんが作ったのよ。得意料理なの。ほら、この錦糸玉子なんてキレイでしょう?」 「へぇ、凄いな・・・。」 「ユリちゃんから、氷室さんは汁物が好きだと聞いて、けんちん汁を用意したのよ?どう?」 「あー、嬉しいなぁ。・・・・ん、旨い! 普段は外食ばかりなので、こういう食事が最高です。」 「よかったぁ!・・・おかわりしてね。」 「はい。ありがとうございます。」 氷室さんの言葉は、誰が聞いてもお世辞ではなくて、本心から出たものだとわかる。 途中から暑くなったようで「すいません」と言いながらスーツの上着を脱ぎ、シャツの袖を捲って夢中で食事を再開した彼。 その事に余計気を良くした母は、まるで我が子を見るような、慈しむ目で氷室さんを見つめていた。
/242ページ

最初のコメントを投稿しよう!