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父と母と、そして彼2
「氷室さん、たくさん食べてってね。」
母は朝から張り切って、氷室さんに振る舞う料理を作ってくれた。
氷室さんが父に挨拶をしている最中は、黙っていた母だったが、テーブルいっぱいに料理を並べた途端に勢いよく話し始めた。
「はい。いただきます。」
「そのちらし寿司は、ユリちゃんが作ったのよ。得意料理なの。ほら、この錦糸玉子なんてキレイでしょう?」
「へぇ、凄いな・・・。」
「ユリちゃんから、氷室さんは汁物が好きだと聞いて、けんちん汁を用意したのよ?どう?」
「あー、嬉しいなぁ。・・・・ん、旨い!
普段は外食ばかりなので、こういう食事が最高です。」
「よかったぁ!・・・おかわりしてね。」
「はい。ありがとうございます。」
氷室さんの言葉は、誰が聞いてもお世辞ではなくて、本心から出たものだとわかる。
途中から暑くなったようで「すいません」と言いながらスーツの上着を脱ぎ、シャツの袖を捲って夢中で食事を再開した彼。
その事に余計気を良くした母は、まるで我が子を見るような、慈しむ目で氷室さんを見つめていた。
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