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月明かりの公園
「でも・・・お兄さんには初めて会った気がしませんね。」
「え?そう?」
深く腰掛けていたソファから、浅く座り直して身をのりだす兄。
「ユリさんから、よくお兄さんの話を聞くんですよ。だからですかね・・・。例えば、小さい時によく本を読んでくれたとか。」
「うんうん。」
「中学校の卒業式の日には、体調を崩されたお母さんの代理でお兄さんが出席してくれたと聞きました。」
「おお、そうなんだよ!親父は出張だったから、オレでよければ出てやろうかと式場へ行ったら、時間ギリギリで一番前の席しか空いてなくてさぁ。あれはまいった。」
「それから・・お兄さんの初任給で、カニ料理をご馳走してもらったけど、食べ過ぎて具合が悪くなったとか。」
「そうそう!ユリが食いたいって言ってたから、奢ってやる約束をして・・・えー、なんだよー。そんなことまで、ユリは喋ってんの?」
「はい。話を聞くたび、どんな兄さんなんだろうと想像していました。」
「あ、ホントに?」
結局、兄は氷室さんと楽しそうに談笑し、1時間ほど前の怒りはすっかり消えてしまった様子だ。
二人とも学生時代に徹夜で麻雀をしていて、隣の部屋や大家さんから苦情がきた話で盛り上がり、「今度一緒に麻雀をしよう」と約束までする始末だった。
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