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二月の青空
朝の通勤電車、先頭車両。
いつもの電車にゆられ、彼を待つ。
冬の朝は空気が澄んでいて、空の青さが目にしみるほどに鮮やかだ。雲ひとつなく晴れたその空に、鳥が高く翔んでいる。
太陽のひかりが射し込んで眩しさに目をふせると、電車が減速して体が揺れ、次の駅に到着した。
彼が住む街の駅のホームに並ぶ人の中、氷室さんをさがす。
いた・・・
彼も、電車のドアが開く前から私の姿をみつけて、目で小さく合図をする。
「はよ。」
「おはようございます。」
笑顔で挨拶を交わした後、彼は閉まったドアに体を預けて、私の頬を指の背で撫でる。
眠そうに目をつぶっているけれど、口元は微笑んだまま。
またそうやって、いつもの朝は始まる。
あの表彰式の騒動から、同じ会社の社員間では、じわじわと氷室さんと私の関係が知られるものとなってきた。
隠れなくてよくなってからも、変わらず二人で先頭車両に乗った。
「氷室さん。」
「んー?」
「昨日は、ありがとうございました。」
「うん。」
昨日、彼は私の両親に会ってくれた。
アクシデントがあったものの、彼の誠実さが家族には伝わったようで、私が選んだ人を認めてもらえたことに、その喜びを静かに噛みしめる一日だった。
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