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スイッチ
「あの・・・氷室さん?」
「・・・・・・。」
氷室さんは後ろから腕を回し、私を動けないように力を入れて抱く。その腕が変にたくましくて、胸がドキンと鳴る。
「氷室さん・・・・・。」
「・・・うん・・・わかってるよ。」
「・・・・・。」
「・・・・・ユリ・・・・」
「ああーーっ!焦げる!」
「なに?」
「シチューが!焦げちゃいます!!」
「えっ!」
私は少し緩んだ彼の腕を振りほどき、慌てて火を消す。お玉で鍋底をクルクルとまぜて確認すると、ギリギリ焦げてはいないようだ。
「はあ、良かった。大丈夫でした。」
「・・・・・・。」
「あ・・・・・。」
「・・・・・・。」
振り返って見たら、拗ねた顔の彼がいた。
普段クールな彼が、子供のように少し唇を尖らせてこちらをうらめしそうに見ている。
その表情から、あの後ろからギュッというのは『スイッチ』が入りかけていたのだと悟る私。
「ごっ、ごめんなさい。」
「いや・・・・べつに・・・。」
かっ・・・可愛い・・・・
ばつが悪かったのか、氷室さんはそのままキッチンを出ていった。リビングのテレビがつけられて、その音が私の耳に届く。
1人キッチンに残って夕食の支度をすすめながら、体に記憶された彼の腕の力強さを思いだし、顔がゆるんで胸がキュンとなった。
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