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すれ違い2
美術品売場の画廊で打合せをしていた彼。
その隣にいた、スラッとした綺麗な人は、彼の肩に手を置いて、私と目が合うと笑った。
「えっ・・・・・。」
その人がどういう意味で笑っているのか、全くわからない。
肩においた手をポンポンとしながら、何かを氷室さんに言うと、彼は振り向いてこちらを見たが、私はその場にいたくなくて顔も見ずに、足早に次の事務所へと急いだ。
こんな泣きたい日に、私ではない女の人に優しくしている彼を、見たくなかった。
店内巡回を終わらせ、人事部のデスクへ戻る。
とりあえず今日は仕事を終わらせて、早く帰ろう。帰ってお風呂に入って、ぐっすり寝てしまおう。嫌なことは、寝て忘れよう。
パソコンの画面を睨みながら、両手で頬を軽くたたく。
そこへ隣のデスクの長谷川くんが、小声で声をかけてきた。
「ユリさん、ユリさん。さっき店次長から、人事異動の内示があったらしいよ。」
「あら、もう内示がでたんだ・・・誰か異動になるの?」
「白井係長が、横浜だって。」
「えっ、白井係長が?」
白井係長と二人で海へ行ってから、もう一年半になる。今、係長とは、ただの上司と部下の関係で、何事もなかったように普通に接していられた。
社外に恋人がいると、噂で聞いた。
彼は福利厚生担当でこちらは教育担当。業務内容は違っても様々なアドバイスをくれたり、繁忙期は手伝ってくれたりして、私の中ではすっかり「頼れる上司」という存在になっている。
その白井係長が横浜店へ異動だなんて、正直ショックだった。
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