プロローグ ~激しい憎悪にその心を冒されながら~

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プロローグ ~激しい憎悪にその心を冒されながら~

「――ぐ……あ……」  まるで自分のものでは無いような呻き声が漏れ出た。 「隼人……くん?」 「隼人くんどうしちゃったの!?」  普段は心地好いはずの木々の揺らめき。葉がかさかさと鳴る音さえも、不協和音のように聞こえて気持ち悪い。  更には愛しいはずの彼女の声さえも、今は一層苛立ちを募らせるのだ。  心の中がどす黒い憎悪で塗り染められていく。  周りの視線に胸が詰まり、だが湧き起こる感情は憎悪だった。  私を見つめる者全てを壊したいという衝動が沸々と溢れてきて、その感情を素直に受け入れれば楽になれる気がした。 「ん……が……あ……」  だがそれでも一欠片ほど残された理性が何とかそれを拒絶する。  ただこの抑えきれない衝動に戦慄し恐怖して、全身が総毛立ち震えた。  駄目だ。激しい衝動は収まるどころか次々に心の内から溢れてはその勢いを増していく。  ――嫌だ。   心が何かに浸食されていく。このまま悪魔にでも豹変してしまうのではないかとすら思う。  自分がこんなにもおぞましい感情を抱ける生き物だったのだと、こんな状況下で初めて気づいた。 「――があああああああっ!!」 「隼人くんっ!」 「――ぐっ――はああっ!!」  激しい罪悪感と哀しみ、怒りと憎悪の感情がない交ぜにされていく中、駆け寄る彼女の手が私の肩に添えられる。  そんな些末な行動が今はどうしようもなく苛立たしくて、うざったくて。このクソみたいな思考は一体なんだ? 「うぐあああああっっっ!!!」  体を一心不乱に動かしながら少しでも周りと距離を取るので精一杯だった。  彼女はそんな私の挙動に体を強ばらせ、哀しげに見つめていた。 「隼人……くん」  なぜなのだ。  私を呼ぶ愛しいはずの彼女の声が。風に乗り耳朶に届く度、鋭利な刃のように胸に突き刺さり、かきむしりたくなるのだ。  最早私が聞く世界の全ての音が、悪意に満ちた悪魔の囁きのようにしか聞こえない。  私は一体なぜこんな事をしているのか。  こんなところにいたくない。今すぐ逃げ出してしまいたい。いや、壊したい。  壊したい…………?  ――――そうだ。  全てを――――全てを壊したい。  ――――ドクンッ!!! 「がっ……はっ……」  鼓動が脈打ち、ついには私の頭の中の全てを破壊衝動だけが満たした。  ――ああ……憎い……憎いっ!! 「――ああああああああああああああああああっっ!!!!!!」  自分の中だけに留めきれない感情を吐き出すように。聞いたこともないような叫び声を上げて、私は半狂乱でその場に転げのたうちまわった。 「はははははははははっっ!!!」  遂にはどうしようもなくおかしくて笑い声が漏れた。  頭が混乱する。  鼻をくすぐる土や草花の匂いが胸くそが悪くて吐きそうだ。  頬に触れる土の感触が鋭利な刃をそこに突き刺したような痛みを連れてくる。 「ぐっ――がああああああああっっ!!!」 「隼人くん!」 「俺の……俺の名前を呼ぶなあああああああああっ!!!」  もう駄目だ。  私はきっとこのままでは私ではなくなる。  どす黒い感情が――――。  苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい!  何故こんな目に合わなければならないのだ!  こんな世界など滅んでしまえ! 消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ!  何もかもこの世から消えて無くなってしまえ!!!!!!!!!!  ああっ!!!  全てがっ!!!  全てがあっ!!!  憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎――。
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