3-34

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アーバンさんとレイノールさんとの再会を経て、私たちはすぐにハルたちとの合流を果たした。 残りのメンツは彼らを見ると目を丸くしていた。 ハルやユーノは特に気にする様子もなかったけれど、意外にも一番驚いた様相を見せたのは工藤くんだ。 「――あっ……アーバンさんっ!? なっ……なんで!?」 「い、いや……私ももう少し旅に同行しようかと思ってな……色々と……思うところがあったのだ」 「……ふうん。そうなんだ……色々とねえ……へえ~……」 罰が悪そうに目を逸らすアーバンさんを見て、工藤くんも曖昧に相づちを打っていた。 何そのお互いの微妙な反応。 私とは違って男同士、何か思うところがあるのだろうか。 そんな折、ちらと工藤くんと目が合って、今回は何言うでもなくすぐに逸らされた。 それもちょっとモヤッとしちゃうんだよなあ~。 はあ~、ダメだあ~私ぃ~。 とにかく変な二人だなあとは思ったけれど、詳しいことは私にもよく分からないし予想もし得ない。 ここは気持ちを切り替えようと思った。なので特に突っ込むことはしないでおく。 きっと二人も私の預かり知らないところで何かしらのやり取りがあったりするのだろう。 そう思うことにした。 そんな折、今度はちらとハルと目が合う。 彼女は何故か嬉しそうにニヤニヤとした笑みを浮かべていた。 「え? 何?」 「ふふ……べっつに~」 そのまま彼女は後ろ手に腕を組みつつ、とことことパトルノの方へと歩いていった。 パトルノはハルと向かい合うと何やら談笑しつつ、不意にパトルノがこちらへ向かってサムズアップを決めるのだ。 何か分かんないけど、それは可愛いから私もサムズアップを返しておいた。 というか分かんないことばかりだな。 ハルの先程の反応に引っ掛かりを覚えた私は、改めて何か思考を読まれたのかと思う。 今私、変な事を考えていたかと自分自身の思考を振り返りつつ。 けれど特段別にそんな部分はなかったんじゃないだろうか。 読まれて恥ずかしいようなことは考えてはいない――――はずだ。 ふむ、至って普通だった。そう思う。 というかビースターズの人たち私の顔見てニヤニヤするの流行りなのっ!? 感じ悪くないっ!? 私はふうと短い息を吐く。 ――とにかく、だ。 いちいちハルやその他の子たちの様子に反応するのも段々面倒になってきた。 なのでもう気にしないでおくと決める。 「クルル?」 クルルが私の元へてこてこやってきて、顔を見上げててこてこ不思議そうに首を傾げていた。っててこてこって何よ。いやでも可愛いから許す。 私はクルルの愛らしさ極限の仕草を微笑ましく思い、彼の目線までしゃがみ向かい合う。 「大丈夫よクルル。別に何もない」 私はクルルの頭をこしこし撫でてやる。 「私がいない間、きちんとお留守番してて偉かったわねえ~」 「クルルゥ~」 彼は気持ちが良さそうに目を細め、クルクル喉を鳴らしながら私の掌を堪能してくれた。可愛い。とくに「ゥ」の辺りがめちゃくちゃ可愛い。癒しだわ。 「シーナ、その子は?」 「え? あ、えっと……」 見慣れないクルルを不思議に思ったのだろう。アーバンさんがそう問いかけてくる。 そうかと思い答えようとして、私もふと首を傾げてしまった。 ――結局クルルってなんなんだっけ? 獣人の子供、ていうことでいいんだよね? 今さらながらだけれど、昼間ハルからは明確な答えをもらっていないということに気がついた。 私は立ち上がりクルルの手を取ってアーバンさんと向かい合う。 「昼間森の中で迷子になってた獣人の子供。――とりあえずカサンドラまでは送り届けようかと思って」 そんな感じでまとめておいた。 「そうなのか? こんなところで……」 アーバンさんは不思議そうにクルルを見つめる。 今は深く考えてもしょうがない。考えたところで答えは出ないのだから。 取りあえずカサンドラで落ち着くことができたら改めて考えよう。 ハルにもその時に改めてクルルについて思うところを聞けばいいのだし。 それよりも今は――。 「――よしっと!」 私は気持ちを切り替え顔を上げる。 とにかく今はカサンドラにたどり着くことが先決なのだ。 「とにかく行こう、クルル、アーバンさんも」 「え? あ、ああ」 「クルルゥ~」 私たちは改めて地竜の背中に乗り込んだ。 それぞれの地竜にはパトルノ、クルルを抱っこした私、アーバンさん、そしてレイノールさん。 もう一方にユーノ、工藤くん、ハル、そしてトトの順で乗り込んでいた。 地竜の運転はそれぞれ先頭のパトルノとユーノ。 最初の荒々しさが嘘のように、今は二体共に落ち着いている。 元々賢い生き物なのではないだろうか。 地を駆ける地竜の背中は思ったより安定して乗り心地はかなり良かった。目線も高く快適だ。 これでもう少し視界が良ければ言うことなしなんだけと。 カサンドラで飼われているからか、人を乗せて走るのには慣れているのだろうか。 人を乗せて地を駆ける姿はすごく様になっているように感じられたのだ。 でもこんなに賢い地竜が、先ほどはあんなに慌てて町から逃げ出してきたのだ。 町で相当大変な何かが起こったに違いない。 私の胸には言い様のない不安が渦巻いていた。 この速度ならばもういくらもしない内にカサンドラの町に着く。 私は改めて気を引き締めねばと思うのだった。
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