5人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺はね。キミのこと、ずっと探していたんだ。宵月萌黄ってキミでしょ?ちょいと頼みごとがあってね。源氏の血を引いていて、源氏のことが大好きなキミにしか頼めないんだ」
彼はキスしてしまうのかしらんと、今まで男ができたことのない女を悶絶の海に叩き落とすくらい、さらにグッと顔を寄せた。そして耳元で囁く。
「キミの大好きな源義経のお願い……聞いてくれるよね?」
いくら自称・義経が端正な美しい顔をしていようとも、不審者であることには変わりない。萌黄は頭をぶんぶん振って、
「義経さまはもっとこう、覇気があってカッコよくてちょっとエロいんですよ!こんなガキンチョ義経さまじゃない!!ニセモノ!パチモン!!」
と叫んだ。
目の前の少年は15、6に見える。あと何才か上にしても、31才で亡くなった義経公がどうして若返ろうか。
「ったく、なーんで信じないかねぇ。散々会いたがってたくせによ」
白い絹の髪飾りで結わいた肩ほどある髪をいじりながら、彼は思案するように萌黄を見た。面倒くさそうに息をつく。
すると何秒かあとに、イタズラを思いついた子供のように手を叩いた。
「いいこと考えた!俺の薄緑で、そこいらの餓鬼に一太刀浴びせる」
薄緑ーーすこし緑がかったその太刀は、義経公が重宝していたものだ。彼はそれを鞘から抜くと、そこそこの重量がある刀なのにもかかわらず、細い腕で軽く素振りをした。
最初のコメントを投稿しよう!