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「俺は、君にしか見えてないよ」
ザァッ……と風が凪いで、草花が波打つ。
風に揺れる少年の姿が、そのとき、とても威厳に満ち足りたものに見えた。
風によって花弁を散らされた美しい花が、目の前に座す兄によって命を散らされた美しい侍大将と重なってーー……
「義経、さま」
気づいたら、その名を呼んでいた。
「ん?なぁに」
義経は子犬のような懐っこい笑顔で首を傾げる。
「義経さまの頼みごと、聞かせて下さい」
萌黄がそう言うと一瞬目を見張った彼だが、すぐに己の持つ太刀と同じ色をした薄緑の双眼を三日月の形にして、にこっと笑ってみせた。
そして、
「もちろん。よろしく頼むね、モエ」
と言って萌黄の頭を撫でた。
4
「那須与一。佐藤継信と忠信。あと、武蔵坊。この4人を探して欲しいわけ」
義経が興味本位で入ったファストフード店で、萌黄は頼みごとの内容を聞いていた。義経の姿が他の人間には見えないので、相槌はなるべくうたないように心がける。
どうやら、蘇った人間は義経だけではないらしく、かつて義経のもとで活躍した者たちがこの日本列島に点々と散らばっているという。
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