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できることならもう一回、お前たちと旅がしたいな。
広いお堂の中でひとり、呟いてみる。
けれどその言葉は虚しく消えて、あっけなく燃え盛る焔に喰われてしまった。
あたりはすでに一面火の海だ。逃げる場所など、もうありはしない。
俺は後ろを振り返って森羅万象を押し黙らすような厳めしい顔をした不動明王を睨みつけ、声高に言ってやった。
「俺はかつて、お前さえ唸らすほどの八面六臂の大活躍をしていたのだ。火を噴く山々を制し、荒れ狂う大海原を制す勢いで平家をも滅ぼした。俺は時の寵児だったのだ。ああ、自惚れてなんかいないさ、あの頃の俺は天下無双だった。相違ない」
でも、と枕を置いてから、俺は続けた。
「俺のその活躍を、気に入らない奴が居たようだ。神でも仏でもない。誰だと思う?……そうだ、俺と血の繋がった腹違いの兄だ。源頼朝。そいつが今、俺をこんな目にあわせている。殺そうとしている」
震える手で、俺は懐刀を握りしめた。この刃物ひとつあれば、いくら向かうところ敵なしだった俺の生命も、あっけない幕切れを迎える。
「頼朝だけは許さない。死んでも必ず俺は蘇り、実兄に逆襲する」
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