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無意識のうちにガタッと席を立ち、口から食パンのカケラがぼろぼろ出ているのにも関わらずひとり呟く。なんとか落ち着こうとして、ずごーずごーともうジュースの入っていない紙パックにささったストローを吸ってみる。むろん何の効果もなく、つぎにフローリングの床をオモチャの買ってもらえない子供さながらごろごろ右往左往した。
しかし何をしても昂ぶるこの感情はおさまることを知らなかった。義経公含め源氏を追いかけ十数年、義経公含め源氏を求め三千里走ることをいとわないこの源氏の血を引いた女に、もはや歯止めをかけることが出来るものなどありはしないのである。
足がもげたって構わない。私、宵月萌黄は源義経に会ってみせる。
そう決心した萌黄はパンも紙パックも何もかも放り出して、なんの計画も立てずに家を飛び出した。そして無計画なのを百も承知で自転車に飛び乗った。
行く当てなんて一つもない。ただ源義経に会いたい一心で、慣れない自転車を気が狂ったように漕いだ。
2
「あ''ーーーっ、足が無理だぁああっ」
情熱は溢れ出るほどあっても、それに釣り合う体力が帰宅部にある訳はなかった。
萌黄は家から大分離れた公園まで来ると自転車を停め、幼い子供達からの不審がられた目線も気にせず大声で慟哭した。
この外出はあまりにも無謀すぎた。義経にゆかりのある場所なんて日本各地にあるのだ。それを、自転車で京都をちょろっと回っただけで見つけられると謎の自信に満ち溢れていた自分をぶっ叩いてやりたい。
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