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しかし、それでもなお人間はかすかばかりの希望にも縋りたくなる種族のようで、頭の中で9割は死んだ人間が生き返るわけなかろう阿呆がと諦めているが、1割は義経様の言った言葉に偽りはないと確信している。まったくもって面倒くさい生き物である。
だが萌黄の体力ゲージはもう真っ赤で、あと1キロさえ全力で自転車を漕げる自信がない。疲れ果てた彼女はふらふらと呼び寄せられるかのように色のはげた水色のシーソーに歩みかけ、それに腰を下ろした。
そのときだった。
あまりにも不可解な物が萌黄の視界に映ったのだ。
「笛……?それも、横笛……」
小学生がはずみでランドセルから落とすリコーダーとは訳が違う。落ちているのは黒塗りの、派手な装飾がなされた横笛だ。篠笛ーーそう、ついさっきニュースで紛失したと言われていた義経が所持していた笛。
萌黄はシーソーから下りて、その篠笛をまじまじと眺めた。容易に触れられないような神々しさをまとっているので、地面に這いつくばってそれを眺めた。側から見ればまるでアメンボだ。
「あはっ、キミ面白いね。いいよ、採用でーーす」
いきなり背後から声が聞こえた。反射的にバッと後ろを振り向く。
「やっぱりそれ、見えるよね?てことは、俺も見えてんだよね」
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