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背後に立っている男は萌黄をじっと見据えた。背はあまり高くない、女のような美貌を持った少年である。思わず息を飲んで見つめてしまうような光り輝かんばかりのオーラを、蛍のごとくぴかぴかと放っている。細身の割にはしなやかな筋肉もついていた。
「……誰……?」
萌黄は一歩後ずさって尋ねた。少年は涼やかな顔立ちの中に残るあどけなさいっぱいの顔で、
「誰?愚問だね。キミならわかるはずだよ?むしろ、知らないなら俺の姿は見えないはずだし」
と言って口角をあげてみせた。餓鬼っぽくにひひっと笑った顔が、どことなく愛らしい。
だからと言って、この少年への警戒心を解くほど萌黄もちょろくない。彼を精一杯睨めつけたまま、
「何言ってるんですか。本当に誰?」
と問い詰めた。
すると少年は萌黄のその態度がまるで愉快であるかのように、歌うような口調でその名を言った。
「やあやあ我こそは、源義朝が九男・源九郎義経なり~!…………と、まぁそういうことよ。俺は源義経」
萌黄と源義経を名乗る少年の間で、結界を張ったような、冷戦の時に造られたベルリンの壁のような、そんな隔たりができて、沈黙が走る。
その長きに渡った沈黙を破ったのは、脳内がクエスチョンマークのオンパレードだった萌黄だった。
「…………はぁっ?」
一瞬だけ、2人の間を強い強い風が吹き抜けていった。
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