ツバサパーカー

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ツバサパーカー

 ちょっとおかしな夢を見た。黒い半袖のパーカーを羽織って、空を舞う夢。背中からは真っ黒な翼が伸び、いとも簡単に、そして自然に、羽ばたくことが出来た。見えた風景は日ごろから見ていた都会の喧騒なのに、空から見下ろしたそれは、異様に美しく映える。嫌いなはずだった日常も、空から切り取ってしまえば許せるのだろうか。  その捻じれた夢の中で、僕は自由だった。風を切り、人混みも暴力的な人口の灯りも、すべてを超越して余りある空にいた。誰の手も届かず、誰の眼にもとまることなく。無限の時間をそこで過ごしたいと願った時、それは醒めた。内容は明確に頭に刻み付けられていて、僕はぼんやりした頭で空の風の味まで思い出すことが出来た。だけど、それは夢だった。願ったことなのか、何かの暗喩なのか、別に夢占いに長けてもいない僕に分かることは何もない。戻ってきた日常に吐き気を覚えながら、少し汗で湿ったベッドを抜け出す。不安定な夢の記憶は、すぐに現実の苦味酸味に掻き消されて飲み込まれた。ワザとらしい咳を思いっきり吐き散らしてみて、見たくもなかった日常を出迎える。     
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