ツバサパーカー

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 寝苦しい熱帯夜は終わり、倦怠に満ちた朝が疲労の残る体を襲う。湿度は高く、手のひらのべたつきが気になった。残り僅かなシリアルをヨーグルトに混ぜ込み、酸味を絞り出した蜂蜜で誤魔化しておく。冷凍庫に入れて3分、壁にもたれて時間を潰した。今日のタスクを思い出して心萎えながらも、冷えたヨーグルトは「それなり」に美味しく、気持ちいい。最高の爽快感をずっと見失ったまま、毎日毎秒を仕方なしに過ごしている。  寝汗に湿ったシャツを洗濯機に放り込み、外用の服をハンガーから外した。大したファッションセンスも持ち合わせていないし、スタイリングしてくれるような恋人は夢のまた夢。ここ何年間か進歩のない選択肢から、深く考えもせずに引っ張り出した装いはお世辞にも洒落てはいない。セール特価2300円のイヤホンを両の耳に突っ込み、サンダルをつっかけて鍵を閉める。SNSを開いて、朝の挨拶を呟いておいた。願わくは、誰かに繋がってみたかったから。  駅に程近いのがこの安っぽい物件の強みだろうか。寝苦しい夜の後でも、遅刻することは滅多にない。重い足をイヤホンから溢れかえるロックンロールで無理やり動かし、鞄のポケットからのど飴を一つ口に含む。少しの甘ったるさが脳味噌と喉を刺激し、ぼんやりした風景に輪郭がついていく。擦れ違う人は忙しなく、それはそれで構わない。過干渉の面倒くささは苦い記憶として残されている。     
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