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第三章 誰よりも君を
「なんだかな…」
仕事が一向に身に入らぬ様子で輝也は頬杖をつき、窓から見える高層ビル群を見ている。
「先輩!」
そんな輝也に先ほどから山崎が声を掛けているが、彼は一向に気付かない。
「輝也先輩!先日のデータが上がってきましたよ!」
書類をバインダーに挟みながら山崎は溜息をつき、敢て音をたてるように彼のデスクの上に置いた。
「あ…」
「やっと気付いたんですか?先輩?ボンヤリなんかして、ったく、カンベンしてくださいよ」
「ああ、すまない」
「なんだか変じゃないですか、朝から」
長い付き合いなだけに、彼のちょっとした異変には敏感な山崎だ。
「なぁ、山崎」
「なんです?」
「ある日突然、天涯孤独になった地獄を他人に話すのってやりきれないものだよな」
輝也を悩ませているものが仕事とは別次元にあると判ると、山崎は脇にあったカフェディスペンサーに手をかけ、デキャンタに入ったコーヒーをコップに二つ用意し、一つを輝也の前に差し出した。
「…先輩にしては、随分とディープな話ですね。他人にあまり興味を示さないのに」
「かもね……オレさ、そいつのこと、傷つけたの。そいつの事情をよく知らないうちに、偉そうなことを得意げに語ってさ。カッコ悪いし、本当に恥ずかしかった」
「…わざとじゃないんでしょう?」
「わざとじゃないけど…それって取り返しがつかないというか…」
そこまで言ってコーヒーを口にした輝也は自分に腹を立てていた。
「…もしかして、あのコンビニ店員のことですか?」
最近の輝也は彼に対して一喜一憂ばかりしている。
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