第四章 大切なもの

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「……翔」 「その翔って名前も、両親が二人で考えて付けた名前だったから」 (誰も好きになれなかった。今まで、みんな自分とは別の世界に生きてるって。でも…)  翔の瞳に光るものが蝋燭の灯りで照らされた。それはやがて、一筋の流れをゆっくりもたらした。 「輝也さん、僕は……こんな僕でもいいですか?」 (僕でも、あなたを愛する資格はありますか?) 「僕は生きてていいのかな」  そんな言葉を待つよりも早く、輝也は翔に駆け寄った。意外に細い翔の肩を初めて抱きしめた。 「バカだなぁ…翔は」  そう言いながらさらに彼の身体をかき抱き、輝也は目を閉じた。 (なんだろう、この温かな気持ちは。胸いっぱいに広がる、安らぎと幸福感だ) 「死ぬのを待つように生きるだなんて言うなよ。オレはアンタが生きててくれて、オレの前に現れてくれたことで、この世界が鮮やかになったんだ。翔をいろんなところに連れて行きたい。一緒に時間を過ごしたい。いろんなものを見て、世界を見て、生きている時間が喜びになればいいと思ってる」  翔の頬を片手で優しく撫でながら、その頬に輝也は唇を寄せる。 「翔の方こそ、こんなオジサンなオレを気持ち悪いって思わないのか?オレは大真面目にアンタを恋愛対象に見てるんだけど」  すると翔はクスクスと笑う。 「……最初は冗談かと思いました。食事に誘ってくれたのは嬉しかったけど信じられない気持ちの方が強くて……。僕なんかに恋なんてするわけないだろうし、って。でも、輝也さんの眼はいつも僕をまっすぐ見てくれているから、それがだんだん…眩しくなってしまった」
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