Prologue:戸惑う「城」と日常の「僧侶」

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鏡の向こうの死翠(しすい)は、少し機嫌が悪いようだ。部屋の片隅にあるバーカウンターを指して言う。 『なあ、フォアローゼズのプラチナ取ってくれねぇか?』 「蒼焔、朝から何言ってるのよ…」 『あたしじゃないよ。死翠だって…バーカウンターにあるから取ってくれる?』 「どのボトルかしら…これ?」 そう言ってRookが手にしたボトルには黒いラベルが付いていた。 それを見て、鏡の向こうからイラつきながら死翠がしゃべる。 『それじゃねぇよ。それはブラックラベル…奥に1/5減ったボトルがあるだろ?そっちだよ』 「ああ、こっちね。蒼焔、そんなに怒らなくても良いでしょ?あたしはそんなにお酒は詳しくないんだから」 『だから、それはあたしじゃなくって死翠だって。鏡の向こうにいるんだよ』 「何言ってるのよ…鏡の向こうって、あたしと蒼焔しか映ってないじゃないの…」 『鏡をよく見て。瞳の色が違うから…』 「鏡の中の瞳…?え、嘘でしょ?何で死翠がいるのよ…」 『鏡の中なら俺はいつでも出て来れる。俺だけじゃないさ。紅焔(ぐれん)紫苑(しおん)も出て来るぜ? しかもその事はMasterも知ってる…Mariaにはまだ言ってないけどな』 「もしかして、独り言を言ってる時って、何時もこの状況?」 『そうだよ?でもこんなの日常茶飯事だから慣れちゃったよ』 それを聞いたRookは頭を抱えていた。医学的には考えられない事が目の前で起きているのだ… 「あたしよりもMariaの管轄ね、これは…あたしも心理学だけやり直さないとだめかな。 そう言えば今日よね?Mariaがテストの結果持ってくるのは…」 『そうだよ。黒のマクラーレンに乗って帰るんじゃないかな?』 「黒のマクラーレン?Mariaが乗るの?」 『紫苑のテストの時に、MasterがMariaに用意するって言ってたからな…』 「そう…って蒼焔、グラス使って飲みなさいよ!」 『死翠が飲む時はグラスはいらないんだよ…』 『グラスなんてただの飾りだ。ここにいる時はこのまま飲んだ方が美味いんだよ』 鏡の向こうでは死翠がボトルを煽っている。こちらではあたし(蒼焔)がボトルを煽っている。 普通の人には同一人物が飲んでいるようにしか見えない光景だ…
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