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何度も何度も同じ夢を見る。そして何度も何度も同じところで起きる。目覚めると瞳には沢山涙が溜まっている。 湯川早雪(ゆかわさゆき)は、ここ数年間、ちゃんと眠れたことはほとんど無かった。いつもうなされて、涙を溜めて、目覚まし時計より早く目が覚める。苦しいけど、それが彼女の日常だった。 「はぁ・・・」 ひとつ大きなため息を付き、早雪はいつものように瞳の涙を拭いながら、ベッドを出る。 一人で寝るには大きすぎるダブルベッド。いつもいないと分かっているのに、目覚めたら隣に彼がいるんじゃないかと少しだけ期待してしまう。 「ニャー」 早雪に声を掛けたのは彼ではなくて、一匹の猫だった。黒と茶色の毛が生え揃った、可愛らしい三毛猫。目を覚ました早雪の元に擦り寄ってくる。 「おはよ、ヨウ」 ヨウと呼ばれたその猫は、早雪に撫でられると気持ち良さそうに白いお腹を見せる。ヨウを撫でた時に感じる温もりで、自分はまだ生きているんだと早雪はいつも実感していた。 ヨウにキャットフードとミルクを出すと、慣れた手つきで朝の支度を始める。 早雪の仕事は、広島県の宮島で営業しているカフェ「(ゆき)()」の女亭主だ。夫と三年前に始めたカフェだが、今は一人で切り盛りしている。 従業員は夫の妹の(もえ)が大学の合間に手伝ってくれるだけで、あとはだいたい一人で仕事をこなす。 そんなに大きな店ではないし、お客が多いのは観光客が増える土日だけだが、それでも一人でこなすのはなかなか大変だ。 「早雪さん、おはよ」 「萌ちゃん、おはよ。今日は早いんだね」 早雪が店で仕込みをしていると、学校に行く前の萌が顔を出した。 「うん、テストだから早く行って勉強しようと思って。今日、夕方からなら手伝えるからね」 「ありがとう、でも無理しなくて良いからね」 「大丈夫!早雪さんこそ、無理しないでね。じゃ、行ってきます!」 そう言って萌は、元気良く店を出て行った。 早雪の店「雪の葉」は、湯川家の住居と隣接して建てられている。 店の二階が早雪達夫婦の住居で、裏の階段が店と繋がっている。 右隣には夫の実家が建っていて、そこに萌と義両親が住んでいる。 三年前に夫の「地元でカフェをやりたい」という夢を叶えるために、実家を改築してこの店をオープンさせた。
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