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【1】
相変わらず、何度も何度も同じ夢を見た。そして何度も何度も同じところで起きる。
しかし最近少しだけ、変わってきた事があった。
「早雪さん」
それは時々、葉ではなくて隆也の夢を見ることがあること。
そんな日は瞳に涙は溜まっていなく、何となく温かい気持ちで目覚めることが出来た。
「ニャー」
しかし目覚めると、部屋にいるのはヨウだけで、隆也はもうこの場所にいないという事実を突きつけられる。
(私は後悔してるのかな・・・)
隆也と会えなくなって、一ヶ月が経とうとしていた。
隆也と過ごした日々よりも、会っていない時間の方が長くなった。
それでも早雪の胸の痛みがなくなることは無く、むしろ増していく一方だった。
「いつまでそんな顔してるんですか?」
いつものように学校帰りの萌が、店を手伝いに来る。
ぼんやりと食器を拭いていると、呆れたように声を掛けられた。
「え?」
「早雪さん、失恋した女子高生みたいな顔してますよ?」
「女子高生?やだなぁ、そんなに若くないって」
「あくまでも例えですって。それぐらい酷い顔ってことです」
「・・・酷い顔かぁ」
早雪は苦笑いしながらも、酷い顔の自覚があったのでそれ以上は何も言えなかった。
「携帯、知ってるんですよね?」
「うん、まぁ、一応」
「かければいいじゃないですか」
「うん、でも・・・」
「遠恋でも良くないですか?」
「あっちから連絡ないってことはさ、私は必要ないってことなんじゃないかな?だって水神さんはあくまでも旅行で来てて、非日常的だったわけじゃない?そこで知り合ったから、気持ちが盛り上がっちゃっただけでさ、帰ったらふっと冷めたみたいな、そんな感じなのかも」
「・・・じゃあ、そう思うなら、そんな顔するのやめてください」
「だよね、ごめん・・・」
萌の言うことは正論過ぎて、早雪は謝ることしか出来なかった。こんな風に義妹に心配ばかりされていて、本当にダメな義姉だと自分で呆れてしまう。
「いらっしゃいませー」
どんなに隆也のことを引きずっていても、それでも早雪は仕事だけはちゃんとするように心掛けていた。
お客様の前では出来るだけ明るく元気に振舞った。
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