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1、出逢い
「さくら…、さくらばあやの、んー、どこだ?」
向陽高校の正面玄関前には、新一年生の名前が呪文のように羅列されていて、自分の名前を探すのにもひと苦労だった。名前があまりにも見つからないので、一瞬、本当に私は向陽に合格したっけ?とわずかながらの不安すら込み上げてきた。
眼球が乾くくらい目を見開き、半ばイライラしてきたところで、ようやく私は自分の名前を発見できた。
櫻庭彩乃 1年1組
どうやら、1組のようだった。学年で何か行事をやるときには1組がすぐ見本で何でもやらされるんだろうし、単語テストなんかも1組から先にスタートするんだろうなぁ、と思うとすっかり気が引けた。
………そうやって、すぐネガティブになるのは、彩乃の悪いクセよ。
どこかから、在りし日のお母さんの声が聞こえてきた。子煩悩だったからなー、ぼんやりお母さんの顔を思い浮かべてみる。記憶にはあっても、存在はもうない。私は靄を払うように、かぶりを振ってお母さんの残像を消し去った。
そして、無事に自分のクラスが分かった私は、混み合う玄関で履き慣れない新しい上靴に足を入れた。サイズはぴったりなはずなのだが、新しい靴はとてもかたい。とりあえず人混みから避難するために、私はかかとを踏んだまま玄関から廊下に出た。
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