1、出逢い

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

1、出逢い

「さくら…、さくらばあやの、んー、どこだ?」 向陽高校の正面玄関前には、新一年生の名前が呪文のように羅列されていて、自分の名前を探すのにもひと苦労だった。名前があまりにも見つからないので、一瞬、本当に私は向陽に合格したっけ?とわずかながらの不安すら込み上げてきた。 眼球が乾くくらい目を見開き、半ばイライラしてきたところで、ようやく私は自分の名前を発見できた。 櫻庭彩乃 1年1組 どうやら、1組のようだった。学年で何か行事をやるときには1組がすぐ見本で何でもやらされるんだろうし、単語テストなんかも1組から先にスタートするんだろうなぁ、と思うとすっかり気が引けた。 ………そうやって、すぐネガティブになるのは、彩乃の悪いクセよ。 どこかから、在りし日のお母さんの声が聞こえてきた。子煩悩だったからなー、ぼんやりお母さんの顔を思い浮かべてみる。記憶にはあっても、存在はもうない。私は靄を払うように、かぶりを振ってお母さんの残像を消し去った。 そして、無事に自分のクラスが分かった私は、混み合う玄関で履き慣れない新しい上靴に足を入れた。サイズはぴったりなはずなのだが、新しい靴はとてもかたい。とりあえず人混みから避難するために、私はかかとを踏んだまま玄関から廊下に出た。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!