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「今回の事件は社会の隠された闇により引き起こされ、さらにその歪みに歪曲した恋慕が混じった…
お世辞にも面白いとは言い難い事件でした」
一人感慨にひたるような青年だったが、
嵯峨は不機嫌そうにさっさとしろ、と告げた
「ではまずこの被害者女性の顔を見てください」
恐らく嵯峨や静斗に向けた言葉であるのだろうが、
まわりの人々や腰を抜かしていた女性も見始める
黒髪の青年は手袋のついている手で横たわっている女性の顎を軽く上げる
「年齢のわりに薄化粧……
単に彼女の好みという線も考えられますが、所持していた小物類からファッションやコーディネートには気を配っていたと言って良いでしょう」
青年は人差し指をくるくると回しながら説明する
「そして特に見てほしいのは口元です
薄くはありますが、直前に飲食をしたようには見えません」
静斗は今一つな顔をしているが、嵯峨はなるほどな、と気づいた様子を見せる
「また、飲食に含む毒薬の例には速効性を用いたものが多い。彼女が化粧直しをしていたとしても速効性の場合は考えにくい。以上のことから飲食による毒殺の可能性は低いでしょう。」
「まぁ仮に犯人がトリカブト毒とフグ毒を混ぜてテトロドキシンにアコニチンを反応させて遅効性の毒を作ったとかなら話は別ですけどね」
聞き慣れない単語に首を傾げながらも静斗は訊ねる。
「じゃあもしもその…遅効性の毒が使われてたら、とか」
「その場合、犯人にとってのメリットが考えにくいんだ
毒殺ってのは基本的に死体の発見を遅らせるためにされることが多い」
青年は静斗のところへ静かに歩いていく
「それなのにわざわざ遅効性の毒を使ってまで、しかも人通りの多い新宿駅で殺す理由がわからない
民衆に見せつけるためだとしても他に適した殺害方法はあったはずなんだ」
静斗のすぐ目の前で止まると、バッ、と顔を上げて静斗と目を合わせる
「さて、では他に考えられる死因はなんだと思う?」
「えっ……」
__また俺に振るのかよッ!!
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