理由がありませんっ!

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  「おはよう、ママチャリ女」  深月が職場の門をくぐり、駐車場の側を通ったとき、同じ部署の先輩、金子由紀(かねこ ゆき)が見えた。 「あっ、おはようございますっ、金子さんっ」 と自転車を止めて挨拶をすると、由紀はいつものように気だるげに、 「今日も元気ねー、新人。  あーあ。  あんたが男だったら、後ろ乗せてってーって言うんだけどねー」 と言う。  いやいや。  私、もう新人じゃないんですけど、と深月は思っていたが。  同じ部署に自分より下が入ってこないので、まあ、あの中では確かに新人か、とも思っていた。  隣の棟の三十五歳の男性社員が社内の呑み会のとき、 「俺もまだ、新人言われてるよ。  だって、後輩入ってこないから~」 と嘆いていたが、自分もそうなりそうで怖い。  それにしても、由紀は、  今日もデートかコンパなんですか? と問いたくなるくらいバッチリ決めている。  入社したての頃、うっかり由紀に、 「今日は何処かお出かけなんですか?」 と訊いて、 「なに言ってんの、あんた。  いつ、いい男に出会うかわからないじゃないの。  私はいつも戦闘態勢よ。  あんたも、もうちょっとちゃんと化粧でもしたら?」 と叱られたものだ。
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