理由がありませんっ!

25/45
前へ
/485ページ
次へ
   支社長室で仕事をしていた陽太は、ん? と顔を上げて、杵崎を見た。  いつの間にか目の前に、書類を手にした杵崎が立っていて、物言いたげな目でこちらを見ていたからだ。 「どうした、英……  杵崎」 と言ったが、杵崎は無言だ。 「そういえば、さっきから、頭にお前の顔がサブリミナルのように浮かぶんだが」 「なんですか、それは愛ですか」 と淡々とした口調で、杵崎は言ってくる。  冗談のように聞こえなくて怖いんだが……と思いながら、陽太は言った。 「いや、暗い海と提灯と鳥居を背に立っているお前の顔が、今朝から何度も頭に浮かぶんだ」 「その私はどんな顔をしていますか?」 「……なにか呆れているようだ」  杵崎はひとつ溜息をついて言う。 「それはサブリミナルとかじゃなくて。  昨日見た光景が脳裏に焼き付いてるんですよ」  そのセリフに陽太は確信した。 「やはり、お前か。  船を動かしてくれたのは」
/485ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3900人が本棚に入れています
本棚に追加