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支社長室で仕事をしていた陽太は、ん? と顔を上げて、杵崎を見た。
いつの間にか目の前に、書類を手にした杵崎が立っていて、物言いたげな目でこちらを見ていたからだ。
「どうした、英……
杵崎」
と言ったが、杵崎は無言だ。
「そういえば、さっきから、頭にお前の顔がサブリミナルのように浮かぶんだが」
「なんですか、それは愛ですか」
と淡々とした口調で、杵崎は言ってくる。
冗談のように聞こえなくて怖いんだが……と思いながら、陽太は言った。
「いや、暗い海と提灯と鳥居を背に立っているお前の顔が、今朝から何度も頭に浮かぶんだ」
「その私はどんな顔をしていますか?」
「……なにか呆れているようだ」
杵崎はひとつ溜息をついて言う。
「それはサブリミナルとかじゃなくて。
昨日見た光景が脳裏に焼き付いてるんですよ」
そのセリフに陽太は確信した。
「やはり、お前か。
船を動かしてくれたのは」
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