支社長室に神が舞い降りました

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 なんというもったいないことをっ。  金持ちの考えることはわからんな、と深月が思ったときには、もう神社のある通りまで来ていた。  ふいに足を止めた陽太は、深月を振り返り、言う。 「別れ際にキスとかしないのか。  夕暮れどきのいい雰囲気だぞ」  突然、なにを言うんだ、と思いながらも深月は言った。 「いや……此処、住宅街ですよ。  みんな見てます」 「大丈夫だ。  こんな黄昏どき、誰の顔も見えていない。  見えにくいから、『()(かれ)』どきって言うんだろうが」 と陽太は言うが。 「いや、貴方の後ろを通っている豆腐売りのおじさんの顔もハッキリ見えています」 と深月は言った。  今どき珍しい、自転車に売り物の豆腐を乗せたおじさんがラッパを吹きながらやって来たのだが。  立ち止まっている自分たちの顔を見ながら通り過ぎている。
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