理由がありませんっ!

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  「おい、総務」  深月がデスクで人事に出す書類を整理していると、そんなざっくりな呼びかけをする男が総務部の入り口にあるカウンターに現れた。  杵崎だ。  おい、総務、とか言うから、課長まで顔を上げてしまったではないですか、と思いながら、深月が立ち上がり行くと、杵崎は、 「誰か他に居ないのか」 と言ってくる。 「……居ません」  みんな社内を巡ってて出払っています。 「金子でもいい」  でもいいとか、金子さんに言ったら殴られますよ、と思いながら、 「居ません」 と深月は繰り返した。 「じゃあ、すまないが」 と、とてもとても頼みたくなさそうに杵崎は深月に言ってきた。 「ボールペン、一ダース。  新品じゃなくてもいい、会議でアンケート用に出すだけから。  あとメモ帳、小ぶりなの三冊」  はい、と言った深月は杵崎に備品伝票を書いてもらっている間、すぐ側の備品倉庫に取りに行ったが、ボールペンもメモ帳も数種類ある。
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