理由がありませんっ!

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 杵崎さん、細かいからなあ。  ボールペンの方は会議に出すとか言ってたし、と思った深月はカウンターに戻り、 「すみません。  どういうのがいいとかありますか?」 と訊いてみた。 「ちょっと見に行ってもいいか」 と言われ、はい、と備品倉庫に案内する。  うわー、緊張するんですけどー。  深月は背中にビリビリ来るようなものを感じていた。  緊張しすぎて、背筋が伸びる。  そもそも杵崎さん、普段から睨んでる感じで、苦手なんだけどなー、と思いながら、 「これとこれと、これ……こっちは新品で。  こっちはイベントとかに貸し出してる分です」 とスチール棚に並んだボールペンの箱を手で示す。  うん、ありがとう、と特に感情のこもっていない感じに言った杵崎はボールペンを、魚を仕入れに行った板前のように吟味し、 「じゃあ、これとこれで」 と指定してきた。  はい、と用意しながら、訊いてみる。 「杵崎さん、もしかして、目が悪いんですか?」  今のボールペンを見る目つきで気づいたのだ。
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