理由がありませんっ!

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「これとこれと。  一種類ずつもらっていいか」  はい、もうなんでもどうぞどうぞ、と思っていたが。  少し気になることがあった。  支社長が言っていたまずい相手というのは、この人のことだろうか。  昨夜、船を動かしてくれたのは杵崎さん? と思いながら、 「……あの」 と深月は勇気を振り絞り、訊いてみた。 「私、昨夜の記憶が、本当に全然ないんですが。  一体、なにがあったんでしょう」  だが、ボールペンの箱と手帳を手に出て行こうとしていた杵崎は振り返り、 「……聞かない方がいいと思うぞ」 とだけ言って去っていってしまった。  いやいやいやっ。  余計、気になるんですけどっ、とは思っていたのだが。  積極的に呼び止めたい相手でもなかったので、つい、そのまま行かせてしまった。  遅れて倉庫から出た深月が、几帳面な杵崎の字で書かれた伝票を、あーあと思いながら眺めていると、 「あ、いいなー、一宮。  今、杵崎さんと二人きりで倉庫に居なかった?」 とカウンターに来ていた他の部署の先輩、関谷純(せきや じゅん)が言ってきた。
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