理由がありませんっ!

35/45
前へ
/485ページ
次へ
   夜と夕の境で空がグラデーションになる頃。  ひーっ、人事の手伝いしてたら、遅くなったーっ、と深月は必死で自転車を漕いでいた。  今日は大祭で舞う舞の練習があるのだ。  急いで帰ってご飯食べてーと算段しながら海岸線沿いを走る深月は目の端になにかを捉えた。  並走しているクルーザーだ。  どう考えても、支社長の船だな、と思い、自転車を止める。  すると、向こうも少し進んで止まった。 「一宮」 と操舵室からデッキに出てきた陽太が呼びかけてくる。 「ちょっと乗れ。  送ってってやる」 「私、自転車です」  そして、家は街中です。  どうやって送る気だ、と大きなクルーザーを見ながら思う深月に、ハンドマイクなしでもよく通る声で、陽太は言ってきた。
/485ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3900人が本棚に入れています
本棚に追加