理由がありませんっ!

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 急いではいるのだが、仕方なく、ちょうど近くにあった漁港まで自転車で行き、深月は陽太の船に乗った。  陽太は深月が揺れる船に乗るのに手を貸してくれながら、 「心配するな。  正気のときは襲わない」 と言う。  いや、それはそれで、どうなんだ、と深月は思っていた。  正気のときには、私など襲わない、という意味にもとれるのだが……。  酔いと驚きから覚めた今、何故、この人が私に手を出したのかわからない、と深月は思っていた。  イケメンで御曹司で、引く手数多だろうに。  だが、デッキに上がっても陽太は深月の手をとったままだった。 「お前の家はどっちだ」 と訊いてくる。 「あっちです」 と深月は街の方を指差した。  陽太はそちらを目を細めて窺いながら、 「幸い大きな川があるな」 と言う。  ……幸い大きな川があったら、なんなんだ。  家の近くの川岸まで行く気か。  江戸時代か。
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