舞を舞うには、理由が必要だ

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「そういえば、お前の方はどうなった。  穢れたから、もう舞えないとか言ってたじゃないか」 と嫌な話題を振られ、 「とりあえず、水垢離(みずごり)でもして、心と身体についた(けが)れを払おうかと」 と深月は答える。 「……穢れって俺のことか。  なに、こびりついた(よご)れみたいに言ってんだ。  もう一度、穢してやろうか」  いや、貴方、病院の廊下でなに言ってんですか……と深月が赤くなったとき、 「陽太くん」 と誰かが陽太を呼んだ。  振り返ると、看護師を従えた松浦院長が立っている。  陽太は松浦に頭を下げたあとで、 「松浦先生、どうして、此処に?」 と訊いている。 「いや、四月に大学病院から移ってきたんですよ」 と言ったあとで、松浦は深月の方を見た。  深月が頭を下げると、松浦も下げ返してくれたが。  その瞳は微笑ましげで、口元も笑っている。  い、いやいやっ。  私、支社長の彼女とかではないですからねっ、と思っている間に、陽太と少し話して、松浦院長は行ってしまった。
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