舞を舞うには、理由が必要だ

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「あのー、支社長は院長とお知り合いなんですか?」 と深月が訊くと、陽太は松浦の白衣の後ろ姿を見ながら、 「以前、身内がお世話になってな」 と言ったあとで、 「でもそうだ。  なんだかんだで俺は神様は信じないから」 と言ってくる。  いや、なんだかんだってなんだ、と思う深月に、陽太は言った。 「信じない奴に舞われても神様も迷惑だろ。  他を当たってくれ」  だが、そのとき、老舗の和菓子屋の紙袋をさげた定長則雄(さだなが のりお)が現れた。  深月の父親より少し若い、気のいい漁師だ。 「深月、来てたのか。  おっ、陽太じゃないか。  どうした。  なんで、深月と一緒に……  ああ、そういえば、同じ会社か」 と軽く則雄は言ってくる。  いや、ノリさん。  支社長が漁業組合に行ったときに知り合ったのなら、この人が支社長だとご存知でしょうに、と深月は思っていたが。  則雄は細かいことは気にしない人だった。  浅黒く焼けた大きな手で、陽太の腕をバンバンと叩き、 「どうだ。  あれから釣ってるか?」 と笑って陽太と話している。
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