舞を舞うには、理由が必要だ

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   七時過ぎ。  深月の地元のコミュニティセンターの一番広いホールには煌々と灯りがついていた。  バラバラと仕事の終わった男たちが神楽の練習に集まってきているのだ。  どうせ練習するからと、一宮清春(いちみや きよはる)は神社から袴姿のまま来ていた。  清春は髪も瞳も肌も色素が薄いのだが、神職の白衣に浅葱の袴がよく似合う。  到着した清春の側に、すすすすっとエプロン姿の高校時代の同級生、万理(まり)が寄ってきた。 「清春(きよはる)、ご飯食べてきた?  万蔵さんが入院したから大変でしょう?」  なにも食べずに駆けつけてきた人間のために、おむすびなどの軽食を女性陣が用意してくれているのだ。  そこに清春の幼なじみの律子(りつこ)が割って入ってくる。 「ちょっと、万理っ。  あんた、もう人妻でしょうっ?  なに今更、清春に言い寄ってんのよっ」 「いいじゃないのよっ。  人妻だろうと、イケメンを近くで眺める権利はあるはずよっ。  っていうか、あんたも彼氏居るじゃないのっ」 と二人は揉め始める。  清春はそこは軽くスルーして、ちょうどやってきた則雄に訊いてみた。 「ノリさん、深月知らないですか?」
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