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グリーンアースの森内裕介社長が刺殺された。
グリーンアースとは、コンピューター技術を用いた緑化事業を展開する会社だ。それほど大きくはない会社だが、事件が殺人とあって、警視庁捜査一課はある人物に捜査担当を任命した。
「永瀬、お前の仕事だ。」
同期の河上からそう告げられたのは、刑事歴16年のベテラン、永瀬真矢だ。この、ベテラン、というのは刑事として表立って敏腕、という意味ではない。永瀬はただ、捜査一課に長く在籍し、比較的小さな事件ばかりを担当してきた、所謂“窓際”警部補だ。警部として華々しく活躍する河上にとって、今回の事件は少々物足りず、永瀬に任せたという訳だ。
「分かりました。」
永瀬は河上にそう返すと、スーツの上着を羽織りながら部下の井口に
「行くぞ。」
と声をかけ、足早に現場へと向かった。
森内社長は社長室のデスクに向かう椅子に深く腰掛けた姿勢で絶命していた。
永瀬と井口は遺体に手を合わせた後、現場検証を始めた。
「心臓を一突きですね、顔見知りの犯行でしょうか。」
井口が永瀬に言った。
「恐らく。鑑識の結果は?」
永瀬は鑑識に現場の状況を尋ねた。
「被害者は森内裕介52歳。死因は凶器が心臓にまで達したことによる失血死でしょう。死亡推定時刻は遺体の状況から今日午前6時頃。それと指紋ですが、この部屋から検出されたのは第一発見者の社長秘書、高嶺綾子のものだけでした。それもドアノブからのみで、凶器からは指紋は検出されていません。」
「秘書の指紋だけ?森内の指紋は?」
井口が驚いた様子で鑑識に尋ねた。
「それが高嶺によると、被害者は極度の潔癖症で常に医療用の手袋を嵌めていたそうで。」
井口は急いで森内の遺体に近づき、その手に手袋が嵌められていることを確認した。
「本当だ。これだと指紋は出ない。」
井口は一人言のように呟いた。
「他に指紋は一切出なかったのか?」
永瀬は鑑識に尋ねた。
「出ていません。これも高嶺の証言なのですが、被害者はこの部屋に出入りする全ての人間に対して、ドアノブ以外に決して触らぬよう厳しく言っていたようです。そのドアノブも、誰かが触る毎に被害者自らが拭いていたと。」
永瀬は少し考えた後
「秘書の高嶺綾子に話を聞くぞ。」
と井口を連れて現場を後にした。
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