217人が本棚に入れています
本棚に追加
剣について祖母から聞いたばかりの桜子は、話が年下の薫にまで行き渡っていることに驚きを隠せなかった。薫よりも桜子の方がお宮から近い場所に住んでいるというのに。
「おじいちゃんに、そう頼まれたの」
桜子が聞くと、薫は気まずそうに言った。
「本当は桜子さんには知られたくなかったんだ。今は忙しいって聞いていたし」
桜子は憤慨して気色ばんだ。
「何を言ってるのよ。忙しくなんかないわ。薫が見張るなら、私もここを見張る。一人でも人目が多い方がいいでしょ」
薫は少し渋い顔をした。
「絶対そう言うと思った。でも桜子さんは帰った方がいい」
「おじいちゃんが承知しないって言うんでしょう」
薫は、ほんのわずかに微笑んだようだった。
そうしていると、年下には思えない大人びた陰影が口の端にのぼった。
「桜子さんを守るのは、僕の任務の一部でもあるからね」
ーー何、言ってるの。
桜子がそう言葉を返そうとした時、ドッと背中に軽い衝撃が走った。
視界が不意にかすむ。雨の音が一段遠くなる。
それが薫の手刀だと気づいた時には、目の前の風景はすでに暗転し、にじむように何も分からなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!