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お宮
翌日、にわとりが鳴く前に自然と目を覚ました桜子は、身支度をしてお宮の山を目指した。
きのうの夜から強くなった風は、ほころび始めた川沿いの桜の木々をしきりに揺らしている。東には黒い雲が、嵐の予兆のようにのぞいていた。雨が降るかもしれないと桜子は思った。
桜子の里は山間の谷間にあり、御影山を中心に南へ開いている。
里には山々を源泉とした五瀬川の豊潤な支流があり、日当たりのよい肥沃な土地に、稲や作物も実りやすかった。
お宮まで行く道も参詣しやすいように整備され、細い小道を歩いていくだけで赤い鳥居の門までたどり着ける。目指す小山が徐々に近づくと、桜子の歩みも自然と速まった。
まだ朝になったばかりだというのに雲が低くたれこめているせいか、まるで夕暮れのように薄暗い。
そんななかを一心に歩いていたため、鳥居の前で見知った宮司の姿を見つけると、桜子はホッとして側に駆け寄った。
神社に古くから務める充房は、その少女が桜子と知って驚いたようで、竹箒を動かす手をとめた。
「桜子さん、どうしたんですか。こんな朝早くに」
「おばあちゃんに、ちょっと話があって」
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