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桜子はにっこりしてそう言った。
この少女が華奢に見えて同世代の男衆が敵わないことを充房も知っている。
パッと見ではそうと分からないが、歩いていても仕草に無駄がないのだ。
「清乃さんなら社務所におられますよ」
「ありがとう」
玉砂利を敷き詰めた境内は霞みがかっており、山に近い空気の澄んだ香りがする。その気を吸い込むと、頭のなかも冴えていくようだった。
この清浄な地で暮らせるなら、巫女になるのも悪くないかもしれない。桜子は深呼吸しながら、一瞬そう思った。でも、そうしないことは分かっていた。
この場は静かすぎる。
桜子は体を自由に動かせる時間が必要であり、稽古場に通い詰めるのもそのためだった。
桜子は頑なに自分が縁談を拒絶する理由は、異性が苦手なせいばかりでもないと考えた。自分は外から押さえつけられるもの、窮屈に感じる何かが嫌いなのだ。
そんな物思いにふけりながら社務所を訪れると、戸口のところで清乃に出くわした。
突然の訪問に驚いたのだろう。
桜子の祖母も古希を過ぎたとはいえ背は曲がっておらず、立ち振る舞いには穏やかな品があった。
その清乃が口に手を添え、何か言いかける前に桜子は切りだした。
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