荒屋

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荒屋

 背の上で揺られながら微睡(まどろ)むうち、いつのまにか朝が訪れていた。薫と会えたことで、いっぺんに胸のつかえが降りたせいかもしれない。  昨夜はほとんど一睡もしていない状態だったため、睡魔に打ち勝つことはできなかった。優にも薫にも聞きたい話は山ほどあったが、移動する間、桜子は押し寄せる波のような眠気に身を預けた。山伝いに、優は(ふもと)の里を目指したようだった。  空が明るくなると、しきりに鳴く山鳥の声で辺りは一気に騒々しさを増す。普段は山歩きをしない桜子も、朝を告げる鳥たちの声はどこか耳に懐かしいものがあった。  木立に朝日が混ざるようになると、優はおもむろに立ちどまって言った。 「目的の場所は、この尾根の先だ。何もないところで悪いが、身を休めるにはいいだろう」  険しい道を下った先に、ひっそりと小さな(あば)ら小屋があった。優は先に引き戸を開け土間にあがりこむと、桜子を(むしろ)の上にそっと降ろしてから戸口に立つ薫を(あご)でしゃくった。 「お前もここで少し休むといい。俺は川で水を汲んでくる」     
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