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ーーあれは水脈の大蛇につながる剣なんだ。お母さんの舞いが逸話として今も有名なのは、それで大蛇とつながることができたからだ。
水神の剣が本当に狙われているのなら、桜子が思っているよりずっと深刻な事態なのかもしれなかった。
ーーと、
言葉にならない気配を感じて、桜子は身構えた。
降り続ける雨のせいで視界は暗く、物音も聞こえないが、何かがこちらに近づく予感がした。
ーー敏感になっているんだろうか、でも。
濡れたせいで体温を奪われたのか、指先もすっかり冷たく凍えている。
桜子はそっと、軸足を固定して重心を低くとった。
寒くて体が震えそうなのは、雨に降られたせいばかりではなかった。
ーー来る。ここに、狙いを定めている。
今度は桜子にもそれが分かった。
はっきりそう感じると、目に見えないものへの恐れよりも言い知れない怒りがふつと湧き、桜子は身を屈めて息を殺した。
数秒ののちに正面に現れた人影は、藍染の装束に赤い天狗の面をつけており、その姿はものものしく異形だった。
桜子は息を呑む。呑んでからそれを悔いた。気を散じた一瞬が、交戦では命取りになるのだ。
桜子が攻撃をしかけられるのを覚悟した時ーー天狗の面はくぐもった声で言った。
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