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目覚め
人の声がする。
淡い夢のはざまで押し殺したように囁かれた声を、桜子は確かに聞いた。どこか緊迫して、差し迫った声音。
それが祖父ーー瑞彦のものだと知って、桜子は思わず耳を研ぎ澄ませた。
「ーーだといいのだが。優が関与していることは間違いない」
ーー優?
桜子の意識は、そこで浮上した。
木目の天井が目におぼろげに映る。
桜子は起き上がって、辺りを見回した。見るとそこは、桜子が飛びだしたお宮のなかの社務所の一室だった。
その物音を聞きつけたのだろう。襖のむこうから祖母の清乃が顔をだした。
桜子がまだ焦点の合わない顔でぼうっとしていると、清乃は声をかけた。
「お腹が空いたでしょう。何か持ってこさせるから、そこで待ってなさい」
片引きの襖が閉まる。
桜子が空腹なのは確かだった。見咎められまいと、夏芽が朝餉の用意をする前に家を出てきたのだ。
桜子は自分がこんな風に横たわっている理由を、しばらくの間、思いだせなかった。
ーーが、直後、嵐のような風雨と薫のことがいっぺんに脳裏に浮かんだ。
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