桜子( 1 )

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 父が少々おてんばすぎると揶揄(やゆ)するほど。何しろ、この里で武芸に関して桜子に勝てる者は、同年代ではひとりもいないのだ。  桜子の白い稽古着と袴姿の背には、漆黒の髪が長く垂れている。しかしそれも無造作に一括りで束ねているだけで、年頃の少女のように紅をさすこともない。  童顔で額が広く鼻筋も整っているが、目には光があり、ひるむことなく相手を見返すため、女子(おなご)としては不躾(ぶしつけ)な印象すらあった。  桜子も、稽古場の正面に佇む桜の木を決して嫌いではない。毎年つぼみがほころび始めると、満開になる日を今か今かと待ってしまう。  でもそれは、散るのを早く見たいからだった。パッと咲いて早く散ってしまう。どちらかというと、その姿は穏やかというよりはむしろ潔く見えて、飽かずにずっと眺めていたくなる。  (つわもの)と同じように、強く気高い木のような気がしたからだ。
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