217人が本棚に入れています
本棚に追加
父が少々おてんばすぎると揶揄するほど。何しろ、この里で武芸に関して桜子に勝てる者は、同年代ではひとりもいないのだ。
桜子の白い稽古着と袴姿の背には、漆黒の髪が長く垂れている。しかしそれも無造作に一括りで束ねているだけで、年頃の少女のように紅をさすこともない。
童顔で額が広く鼻筋も整っているが、目には光があり、ひるむことなく相手を見返すため、女子としては不躾な印象すらあった。
桜子も、稽古場の正面に佇む桜の木を決して嫌いではない。毎年つぼみがほころび始めると、満開になる日を今か今かと待ってしまう。
でもそれは、散るのを早く見たいからだった。パッと咲いて早く散ってしまう。どちらかというと、その姿は穏やかというよりはむしろ潔く見えて、飽かずにずっと眺めていたくなる。
兵と同じように、強く気高い木のような気がしたからだ。
最初のコメントを投稿しよう!