桜子( 3 )

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桜子は袴をさばいて正座し、頼むように下から祖父を見上げた。  瑞彦は一瞬虚を突かれたようだったが、たちまち相好をくずした。 「何を考えこんでいると思えば」  どこか感慨深げに瑞彦は言った。  桜子は祖父にむかい立ち上がった。 「笑いごとじゃないのよ。お父さんは早く婿(むこ)がねを得ようと必死なの。私にそんなつもりはないというのに」  桜子が言い募ると、瑞彦もいくぶん口調を改めた。 「だがいつまでも嫁がずにいるわけにもいくまい。お前の父、秋津彦(あきつひこ)にも考えがあるのだろう。それとも誰か想う相手がいるのかね」  色めいた質問に桜子は?をふくらませた。 「いるわけないでしょう。いたらこんなに苦労しないわよ」  桜子が言うと、瑞彦は愉快そうに笑った。  ーーまったくもう、他人事(ひとごと)だと思って。  様々な受け身の取り方を繰り返し体になじませていくうちに、波立つ心も徐々に()いでいった。  ーーこういう時、お母さんがいれば違うのかな。  桜子は記憶にない母を慕うことは滅多になかったが、最近しきりに思うのはそのことだった。  何不自由なく育てられたとはいえ、自分が異性のことを知らずにまごついてしまうのは、身近で指南してくれる人がいなかったからではないか。  友達としてなら別だが、男女のこととなると桜子は疎かった。母が生きていれば、こういう時どうすればいいかを諭し、父を懐柔させてしまうのではないかと思うのだった。
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