桜子( 4 )

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 香染(こうぞめ)直垂(ひたたれ)萎烏帽子(なええぼし)を被り、押し出しの良い風貌の秋津彦は、桜子に対し張りのある声で言った。  顔を合わすなりその話を持ちだそうとする父に、うんざりしながら桜子は被りを振る。  (みやこ)から遣わされる国司とは違い、豪族(ごうぞく)が多い郡衙(ぐんが)で働く父は、何かと人に会う機会も多いのだろう。桜子が首を振っても機嫌を損ねることなく、歯を見せて言った。 「まだ紹介できる口はある。良い話を持ってくるからな」  夕餉を終えて自室に戻り、夜具として使う(ふすま)を広げると、ようやく桜子はくつろいだ気持ちになった。  風が強いのか雨戸のきしむ音が聞こえてくる。目を閉じると、風の音はより近くに聞こえるようだった。  ーー明日、お宮に行ってみようかな。  目を閉じたまま、桜子はそう思った。  亡き母の神社は、里の北側に尾根を連ねる御影山(みかげやま)の手前ーー小高い山を登った先にあり、稽古場の方角とはちょうど反対側に位置していた。  そこでは桜子の祖母にあたる清乃(きよの)が、宮司や巫女とともに境内で暮らしている。  今の桜子の現状を里の友達に相談しても、笑ってすまされるのは目に見えていた。     
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