桜子( 4 )

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 桜子の年齢で祝言を挙げるのは、めずらしいことではない。片親とはいえ自由気ままに武芸にいそしみ、同じ稽古場の(おのこ)を打ち負かしてしまう桜子が縁談のことで悩んでいるなんて、同郷の少女たちには言えそうにもなかった。  一笑に付されるのが関の山だ。できるだけ良い家にお嫁に行くことは、里の少女の共通の夢でもあるのだ。贅沢といえば贅沢な悩みかもしれない。  でも桜子は、自分と同じ立場で親身になってくれる誰かが欲しかった。頼みの祖父も取り合わないとしたら、残るのは祖母の清乃だけだった。  ーー決めた。明日お宮に行って話してみよう。  そう決めると少しは気が晴れて、桜子は(むしろ)の上に身を横たえた。いつも寝つきだけはいい桜子なのだ。  まぶたを閉じると暗幕が降りるように、やがて眠りのなかへ落ちていった。
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