1章

4/6
前へ
/246ページ
次へ
そして、その(するどい)い爪が、彼女の体を切り裂こうとした。 アンはその攻撃を右腕で受け止める。 それなのに、血の一滴(いってき)も出ていない。 それは――。 アンの右腕が機械だったからだ。 彼女は、生まれた国――ストリング帝国で仲間とともに軍のウイルス実験に使われた。 その細菌の名はマシーナリー・ウイルス――。 ストリング帝国の科学者たちが開発した、人体を侵食する細菌。 このウイルスは、体内で一定の濃度まで上がると成長し、宿主(しゅくしゅ)の身体を機械化する。 機械化した者は、人体を超えた力と速度で動けるようになるが、宿主は自我を失い、ストリング帝国の完全なる機械人形へと変わってしまう。 アンは、その実験で自分の部隊の仲間たちが機械化し、互いに殺し合うことを強要された。 13歳で両親と妹を合成種キメラに殺されたアン(そのときにグレイに助けられ、その後に育てられた)。 それからの3年間――。 現在16歳のアンは、キメラへの復讐を(かて)に生きていた。 そのせいか、いつも無愛想だった彼女にとって、部隊の仲間は数少ない優しくしてくれた理解者たちだった。 部隊の仲間は、アンにとってグレイとニコと同じように家族も同然。     
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加