孝太君

9/9
49人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ
 あんな風に(ささ)やかに主張された女の子の気持ちって、とっても可愛く思える。  だけど、初恋の痛みを未だに振り切れてない孝太君は、きっと何にも気付いてない。  元気を失くしてた横顔を思い出して、私は胸の中で息を吐いた。  いつまでも、実らないものに(こだわ)ることないのに。もっと違うところにも目を向けてみればいいのにな。もったいない。  ついそんなお節介なことを考えながら、私は人混みに紛れて歩いていく。  その間、色んな方向に、次から次へと視線が移っていってしまう。  目立つ格好をしてる人が少なくないのだ。学生服だったり、着ぐるみだったり、メイドさんだったり。声を上げて客引きしてる大学関係者の方も、辺りをのんびり見て回ってるお客さんの方も、コスプレしてる人は目に付く。  その中に、着物姿の女の子を発見した。さらさらした髪をおだんごにしてて、腰に白いエプロンを付けてて、まるで昔の時代から女給さんがタイムスリップしてきたみたい。小さく膨らんだ風呂敷を、両手で大切そうに抱えて歩いてる。  ほんの偶然だけど、見つけられたことが嬉しくて、私はその子の元へ駆け寄った。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!